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就職はしてもまだまだ夢を追い続ける、そんな子鬼の唄をどうぞ。
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幼少の砌、師である先代住職が繰り返し言っていたあの言葉。

―――決して神を起こしてはならぬ。

幼い子供にはその言葉の意味するところが何かまだ理解できていなかったのだが、師は多くを語らず、結局嵩尚が真実を知り得たのは代を継ぎ、先代亡き後、書物庫から見つけた古い書物からだった。

それにはこうある。
「かつて光來寺は山の麓にあった。
ところがあるとき、村周辺一帯ひどい飢饉に見舞われた。
ときの住職は土地神に救いを乞うた。
山深くにおわす土地神は、山を離れることが叶わない。
代わりに、これより後、光來寺の代々住職を土地神代行とし、末の代に至るまで土地を守護し続けることを命ぜられた。
初代はその使命に従事すべく、高來寺を山頂へと移した。
ゆえに現在の光來寺は山頂に、分寺は隣村に位置する麓に置かれている…」

そう、光來寺の住職に代々受け継がれてきたこの力はもとはこの地を守る土地神に与えられたもの。
つまり、この地が脅かされるとき、住職は土地神代行として、この地を守る義務がある。
ならば人は?
その地に住まう人を守ることもまた、光來寺住職の使命ではないのか。
なのに何故、この力は恐れられている。
何故この力を行使した代償が存在する。
そこまでの思考で、嵩尚は気づいた。
神に与えられた力はあくまでこの地を守護するためのもの。
そしてかつて飢饉に見舞われたとき、救いを乞うた初代の住職に神が力を与えたのも、決して、飢饉に苦しむ人々を救おうとしてではない。
神が守るのはあくまでも土地のみ。
飢饉に冒され、蝕まれてゆく大地を守護するために神は住職に力を与えたのだ。
その結果として住職が力を行使し、村が救われたのは結果論。
そこに意図する本意は人と神とで差異があったのだ。
嵩尚の、鴇を、史義を救わんとして力を行使した際に生まれた「害」も「代償」もまた、神との誓約を違えた罰に他ならない。
土地神から与えられた力は土地のためのもの。それを、人を守るための力と思うのは人の傲慢にすぎず。

そして嵩尚は絶望した。

「今日が峠になりそうだよ」
嵩尚の傍に座していた晃煉が、振り返って静かにそう言った。
彼の背後、壁に寄りかかって片胡座をかいていた守宏は、ああやはりそうかと肩を落とした。
晃煉は医術の心得がある。
その彼が言うのだから、間違いはない。むしろ、素人の自分から見ても、最早そうなのだろうという推測はついた。
今茵に寝かされている嵩尚は、全身を清潔な包帯で覆われている。だが、先ほど取り替えたはずの包帯は早くも赤が滲み、白を保っている部分は少なくなりつつあった。
禁忌の力の解放から3日、彼が全身に負った傷は、傷自体も深くはあったがそれ以上に、あれから一向に出血が止まらないことに、嵩尚の肉体は蝕まれていた。
発熱が続き、しばらくは呼吸も荒く早かったのが、出血が止まらないことで体力を極限まで削がれ、今や息も切れ切れの状態である。
正直、いつ息が止まってもおかしくない。
そしてなにより、彼自身が。
(生きることを、諦めている…)
守宏は内心でそう呟いたが、恐らくは晃煉も同じことを思っているだろう。
守宏も晃煉も、幼少から嵩尚を知っている。
村の者たちに慕われ敬われる存在ではあれ、真実彼がどういった性情なのかを、ふたりは誰よりもよく理解している。
ふたりの知る嵩尚は、全てにおいて無関心だった。
下手をすると、長い付き合いの自分たちにすらも、その関心は向いていなかったかもしれない。いや、きっと事実、向いていなかったのだろう。
自分のことすらどうでもいいと、いつだって投げやりで無関心で。
だから彼が、表面上は親身を装ってはいてもその実自分から動くことは永久にないと守宏も晃煉も思っていた。
あのときまでは。
でもあの日、鴇の養父と名乗る人物が持ち込んだ話を皮切りに、嵩尚の様子は変わった。
彼と約束したという、ふたりの息子を救うべく、嵩尚は奔走した。
奉行への背徳、自分の立場を利用した大胆な作戦。
正直これまでの嵩尚ならまずこんなことはしなかった。
けれど、鴇を、史義を救わんとして。
嵩尚は行動した。
自ら望んで。
なんの利益もないことと知りながら、見返りなしに彼は動いた。
だからこそ、力を行使した代償と結果に、嵩尚の絶望はさぞや大きかったことだろう。
今彼に、生きる希望はなにもない。そして、彼を親友と呼ぶ立場にありながら、なにもできずにこのまま友の弱りゆく姿を見守り続けなければならない自分たちの無力さを、守宏も晃煉も痛感していた。
熱に浮かされ続ける彼が、時折うなされるように呟く。

―――ごめん、鴇…

ごめん。
ごめん。
ごめんなさい…

嵩尚の口から紡がれるのは、ひたすらに謝罪の言葉。
嵩尚は本心から初めて人を救いたいと思った。
なのにこれは。
なんという仕打ちか。
かつて土地を守れと命じた神は、その力を行使する者を救ってはくれなかった。それどころか、あまつさえその命すらも奪わんとしている。
(そんな力、本当に必要なのか…)
なあ、嵩尚―――…

ふいに気配を感じて、ほぼ同時に守宏も晃煉も顔をあげた。
今日は日の光が暖かいからと開け放たれた縁側に、ぽつりと座る者がある。
生者ではない。日の光に晒されて縁側にうつるはずの影がないからだ。
その者を、ふたりは知っている。
「鴇…!!」
あの日以来、姿がとんと見えなかった、あの霊だ。
嵩尚が心から救いたいと願った、叶わなかった人物。
嵩尚の力の解放によりしばらくはそれどころではなかったのだが、落ち着いてから改めてみたとき、彼の姿はどこにもあたらなかった。
「鴇、お前…っ、今までどこに…!」
とっさに立ち上がり、彼の傍に駆け寄ろうと一歩踏み出しかけて―――彼は気づいた。
鴇の様子がおかしい。
「鴇…?」
訝りながら再び呼び掛けると、彼はようよう顔を起こした―――虚ろな目で。
振り返った彼は、緩慢に首をかしげながら言った。
「『鴇』…?」
その一言でふたりは悟った。
ああ彼は。
彼もまた、救いたいと願いながら二度も手が届かないままに兄を失い、そして絶望し、心を閉ざしたのかと。
心なくした彼に、最早記憶はない。
「俺は、誰だ…?」
呟く彼のその両の手には、彼が現実を、真実を、結果を拒んだその証とでもいうかのように、深く刻まれた傷跡が残っていて。

そして。

守宏だけは気づいた。

その更に後方、縁側から一望できる庭の片隅に、ただ一人佇むもう一人の青年の姿。
鴇と同じ面立ちを持つその者は、上衣を赤に染め上げて、暗い形相でうつ向きながら、
「この俺を裏切った、鴇、俺はお前を、決して赦さない…」
低く呟いたその言葉はまるで呪いのようで。
そうして彼はそのまま、かぜのようにゆらりと姿を消した。

その深夜、嵩尚は静かに息を引き取った。

「―――…後悔、してるかい?」
振り返った嵩尚は、その視線の先にいる人物が踞ったままの状態でいることに、そっと苦笑を漏らした。
きっと彼は今、嵩尚の負ってきた記憶を前に痛みを感じている。
彼は優しい子だ。
嵩尚の痛みを、自分のことのように感じているのだろう。
そうして苦しいと声をあげてしまわないように、ぐっとこらえて、両膝を力強く抱いているのだ。
そのなんといとおしいことか。
嵩尚の問いかけに、声を漏らさずに力一杯首を横にふる。
そうやって、嵩尚を受け入れようともがく姿は、本当に尊くて。
「ありがとう」
素直に、自然とその言葉が口をついて出た。
よろよろと顔をあげた少年の目が、何がだと問いかけている。
そっと微笑んで返し、嵩尚は続けた。
「君が僕の未来で本当によかった。
無責任でごめんね。でも、君にならきっと託せる」
音の響かない世界の中で、嵩尚は亜嵩と向き合った。
自分と比べ、まだ随分と幼い少年。
けれどこの少年の、なんと器の広いことか。
そして彼自身も、鴇との出会いをきっかけに、様々な刺激を受け、めまぐるしく成長した。
たった数日ではあるものの、亜嵩は今、嵩尚のもっとも重く辛い部分を背負おうとしてくれている。
自分よりもずっとずっと幼く小さく、儚い存在の、この少年が。
なんという強さだろう。
なんという健気さだろう。
そんな彼が自分の後継で。
(本当に、よかった…)
彼でなければきっと逃げ出していた。
彼でなければきっと受け入れられなかった。
彼だったから。
だからきっと今度こそ救える。
幼い少年の手をとって、嵩尚は言う。
「君なら、きっと救える。
お願いだ、僕の代わりに」
その言葉に、応えるかのように。
その小さな手は、優しく、力強く、握り返してくれた。

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イルカショーのあとはちょっと逆走して、京都水族館の売りになってる(らしい)オオサンショウウオに会いに





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をとってすぐがちょうどイルカショーの時間だったので、イルカさんに会いに





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今日は先日オープンした京都水族館に来ています!!
正直海もないこんな盆地に「水族館!?」というのが私の本音だったんですが、それでも水族館という言葉にトキメキつつ、さっそく水族館の方へ♪



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