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就職はしてもまだまだ夢を追い続ける、そんな子鬼の唄をどうぞ。
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「さぁ亜嵩様、もう少しお休みになった方がよろしいですわ」
「亜嵩様のが優れませんね。やはりまだ無理は禁物ですよ」
それはつまり、亜嵩が現状を把握して絶対不利に陥っており、思わず顔面蒼になっているということを冷やかして言っているのか。
内心でつい、そんなことを毒づいてしまう。
しかし現実問題、それが事実だ。
亜嵩が1人で、大の大人2人を相手にしてここから逃走を図るには、あまりに不利が大きすぎる。
特になぎはは小柄な亜嵩を片腕で抱えあげてしまいそうなくらい、立派な躯をしている。
そんな男の隙を縫っての脱走は、不可能に近い。というか無理だ。
(それに、ここには多分・・・)
脳裏に浮かぶものがある。
それがなくては鴇に味方する意味がない。
それこそ無能だ。
史義の刀。
あれを探し出してこの手にしなければ、鴇との約束を果たせない。
(せめてあれの所在がわかれば・・・)
2人に悟られないように、内で小さく舌打ちした、その時。
―――・・・もしも
(・・・!)
はっとして、亜嵩は顔をあげた。
そうだ、と思い出した記憶を呼び起こす。
―――もしも、どうしても逃げざるを得ない状況になったら・・・
族が旅立つ直前、父が言った言葉。
―――大切なものがある。西の庭、池の手前の宝物庫の中に
あれは、そういうことだったのかと、今になって得心がいった。
思えば、父はこの光來寺の長子。
本来、祖父の跡継ぎとなっていたはずの人物だ。
この状況を知らないはずはない。
(成程・・・親父のたぬき根性はじいちゃん譲りか)
思わず悪態をつきたい気分にもなる。
恐らくは、かつての彼も、同じ状況に晒されたことがあったのだろう。
だから亜嵩に言葉を託した。
自分が知る限りの、最大限の力として。
―――その中の右の棚、手前から2番目のから3段目、その引出しの中にあるものを持って行きなさい
それこそが史義の刀だと、亜嵩は確信した。
確証はなくとも、自信がある。
これまでの人生の経験上で、自分が最も信じるべきものを亜嵩はきちんと理解している。
だから迷いはない。
あとは。
(どうやってここから脱出するか、だが・・・)
元の課題に戻って思案を始めかけた亜嵩の視界の端に、その時見慣れたものがかすめた。
(・・・!)
彼がはっとしたと、同時。
パリーン、と景気よく、何かが割れる音が響いた。
「何・・・!?」
2人が揃って縁側へと振り返る。
今だ。
「・・・!?」
2人の気が瞬亜嵩からそれたその隙をついて、彼は背後の障子を蹴破って廊下へと飛び出した。
すぐに気付いたなぎはが後を追う。
だが亜嵩の動きに、最早迷いはなかった。
ここに住むことになった時にここの見取りはすぐに頭に叩き込んだ。
それに。
(元陸上をナメんなよ・・・!)
何を隠そうこの光來寺亜嵩、ここに引っ越してくる前までは小・中学校と、陸上部に所属していた。
都会育ちとはいえ、足には自信がある。
ためらいもなく廊下を突っ切り、庭へ。
宝物庫は扉が前後についているので袋小路になる心配はない。
裸足のまま庭を駆け抜け、宝物庫の扉を体当たりでこじ開けて中に入る。
すぐさま扉を閉め、右側の棚に飛びついた。
右側の棚の手前から2番目下から3段目。
はやる気持ちをなだめながら、引き出しを開ける。
「あった・・・」
静かに、時を忘れてただひっそりと納められた一振りの刀が、そこにはあった。

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から、何となくが逸った。
胸騒ぎ、とでも言うのだろうか。
とにかく気が落ち着かない。
どうしたんです?らしくもない」
彼の背後に控えていた男が、少しなまりの残る日本語で問いかける。
彼と日本で出会ってから、仕事を共にするようになってもう随分になるが、どうも日語は不得のようだ。
しかしそれでもたまにこうしてぎこちなくも聞かせてくれる日本語を、とてもおしく思うのだ。
それに、仕事に、他の社員にはわからないようにあえて日本語で話しかける時は決まって自分のことを心配してくれている時なのだ。
それが、男には嬉しかった。
「少し、気になることがあってね・・」
「ご息のことですか?」
「鋭いね」
さわやかに笑いかけて、相棒の洞察力を称賛する。
いえ、と謙虚に会釈するあたりが、真面なこの男の良いところだ。
再び窓の外を眺めながら、男は言った。
「そろそろ、成長したあの子をにして、父が本性を現す頃ではないかと思ってね・・・」
自分の時もそうだった。
だから、きっと今度もそう。
「亜嵩は賢な子だから、もう気付いているだろうね」
「あの寺は・・・ご子息を欲しているでしょうからね・・・」
日本で会った時にそのことで彼を巻き込んでしまった。
だから彼も知っている。
あの寺が、いかに危険かを。
「しかしそのようなところに何故わざわざご子息を・・・?」
「そんなこともわからない頭ではないだろう?シャオ」
「『彼』、ですか・・・?」
「ああ・・・。僕は助けてあげられなかったからね・・・」
だが、亜嵩ならば。
あの子ならば、きっと現状を打破し、活路を開いてくれる。
そう思ったから、今回あえて彼を1日本に残した。
それに、いざという時の為に、ちゃんと切なことは伝えてある。
―――もしも、逃げざるを得ない状況になったら・・・
その話をした時、息子は激しく冷めた視をこの父に向けてきた。
だが、だからと言ってそのことを忘れるような子ではない。
生意気なところが妙に育ってしまった息子が、今頃あの時の言葉の意味をひしと痛感しているであろうことを思い浮かべて、男はふっと小さく笑った。
「シャオ、今から日本に飛んでくれるか?」
それでもかわいい息子だから、手を差し伸べてやるのだ。

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「・・・え?」
はっきりと言葉を聞き取って、亜嵩は目を開けた。
瞬視界がぼやけるが、すぐに見慣れた天井が浮かび上がる。
ここは自分にあてがわれた屋だ。
そう確信して、亜嵩はゆっくりと上を起こした。
の隙間から光が差し込んでいる。
もう太陽が高いことが窺えた。
昨日のいつ頃に帰宅したかは定かではないが、日が高くなるまでゆっくり休めたおかげだろう。
あれほど激痛を訴えていた四肢は、昨日のことなど忘れたかのように元気を取り戻していた。
案外自分はタフなのかもしれない。
そんなことを思いながら、立ち上がりかけたところで、障子が開いた。
「あら、もうお目覚めになられたのですか?」
「はい・・・って、は?」
条件反射で返答を返してから、おい待て自分と突っ込みをいれる。
振り返る亜嵩の目の前には装束をまとった妙齢の女性が1人。
ここで断わっておくが、この寺の住人は亜嵩とその祖父にしてこの寺の主たる老人、そして、ほぼ無許可で居座りこむ諸々の事情を抱えた幽霊たちのみ。
最後にあげた住人達はむしろ生者ではないのでカウントしなくても支障はきたさない。
つまりは、この寺の中で、生きて衣食住を行っているのは実質2人のみで、それ以外に人はいないはず、という結論に至る。
しかしだ。
この性はどこからどう見ても生者、そして、白装束の修行衣をまとっているからにはこの寺の関係者とみるのが自然である。
だが、それならばどこから降ってわいたのか。
「あんた・・・」
「あ、これは失礼を」
亜嵩にとって知らない存在だと悟った女性は、その場に正座し、両をそえて恭しく頭を垂れた。
「わたくし、こちらの光來寺に仕えております、ゆいて、と申します。常はこちらの分寺にあたります、隣村の山寺を任されておりまして、そちらでお勤めをさせていただいております。
本日は、亜嵩様の祖父君であらせられる住職様が分寺の方に出向いていらっしゃるので、わたくし共が呼ばれまして、こうしてお世話をさせていただいております」
「はぁ・・・」
気のない返事をしながら、亜嵩はゆいての傍らに置かれたものに視を投じた。
きれいにたたまれた、亜嵩の制服である。
昨日の一件で汚れてしまったのを、洗濯してくれたのだろう。
祖父の代わりに亜嵩の世話をしてくれていたというのはどうやら本当のようだ。
だが、今の会話でわかったことが1つ。
(じじい・・・逃げやがったな)
分寺に出向いたというのは間違いなく口実だろう。
目を覚ました亜嵩に問い詰められることを予期して、早々に逃亡したのだ。
それとなく腹立たしいが、それはあえて表には出さず。
「共、ってことは、他にも誰か?」
「はい」
彼女が頷いたところで、隣にもう1人姿を現した。
こちらは男性。ゆいてとはが近そうだ。
どちらも凛としており、端正なつきである。
色素の薄いの髪を、男性は肩につくぐらいまで伸ばし、左側に束ねて垂らし、ゆいては腰ぐらいまで伸ばして横髪を高く結いあげ、赤い太紐で結んでいた。
瞳はゆいてが薄桃、男性が薄茶色をしている。
どちらも細目で、あまり表情を瞳に見せなかった。
これだけ似ているのだ。恐らく兄妹もしくは姉弟だろう。
亜嵩がそう推測したのを察知したかのように、ゆいては薄く微笑んで言った。
「お察しの通り、こちらはわたくしの兄。なぎは、と申します」
妹の言を受け、なぎはは笑みをたたえてお辞儀する。
「なぎはでございます。以後、お見知り置きを」
「あ・・・こちらこそ」
年上の2人に丁寧に頭を下げられて、亜嵩は慌てて会釈した。
ちなみに余談だが、亜嵩は寝起きの頭に長袖のプリントTシャツ、下はジャージでしかも未だ布団の上という、礼儀には程遠い状態だったりする。
「本日より亜嵩様をお世話させていただきます故、どうぞご遠慮なくお申し付けくださいませ」
「え・・・?祖父は帰らないのですか・・・?」
おもむろに問いかけて、亜嵩ははっとした。
昨日の今日で、勘は極限まで高まっている。
だから気づいた。
この違和感に。
(あのじじい、この2人を監視に付けたんだ)
理由はわからない。
だが、この2人が明らかに不自然だと、亜嵩は悟ったのだ。
「祖父の狙いは何ですか?」
立ち上がって、笑みを浮かべながら尋ねる。
すると、2人の空気は一変した。
一瞬、あっけにとられたように目を見開き、それから2人揃って視線を落とす。
うすら笑いを浮かべたままで、ゆいては言った。
「・・・さすがあの方の後継、鋭くていらっしゃる」
「後継かどうかは知らないけど、さすがにここ3日くらいで勘が冴えてきててね。あいにくと、老人の道楽に付き合う趣味はないんだ」
「まぁ」
わざとおどけてみせて、ゆいては笑う。
否、笑っているのではない、嗤っているのだ。
この寺に囚われ、抜け出すこともできないであろう、非力な少年を。
(何が亜嵩様だ、嫌味兄妹め)
胸の内で悪態をついて、亜嵩は一歩後ろへと後退した。
「どちらへ?」
なぎはが問う。
「さてね。とりあえず、あんたらに構われなくていいとこ、かな
茶化すように、負けじと亜嵩も食い下がる。
ここで根負けしたら最後、自分にあとはない。
昨日と同じだ。ここで負けるわけにはいかない。
「申し訳ないのですが、亜嵩様にはこれより後、外出は全て控えていただきます」
「住職様のお申し付けですので」
さらりとえぐいことを言う。
つまりは亜嵩を、祖父の思い通りに育った後継に仕立て上げるためにここに閉じ込めるということだ。
そこでふと、別の事実へと行き当たる。
(もしかして、鴇のことに関連している・・・?)
史義の刀は恐らくこの寺のどこかだ。
その存在を知ったから、亜嵩を閉じ込めようとしているのか。
だとしたら。
亜嵩は愕然とした。
つまりはこの状況。
(俺は、めから、敵の中に居た―――・・・?)
あの影と祖父とが手を組んでいるとは考えにくいが、どちらにしてもこの先亜嵩が鴇を助ける上で、弊害になるに違いない。
(鴇・・・っ)
こんな時、隣にあの男が立っていてくれたなら、どんなにか心強かったことか。
現実逃避のようにそんなことをつい思っていしまう亜嵩の眼前には、恐ろしく冷たく嗤う兄妹が佇んでいた。

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最近ではめっきり忙しい身の上となった学の身としては、休くらいはゆっくりと眠りたいという願望が否めない。
例外なく、その1であるというのにも関わらず、早くから、それも、休日くらいは拝まずに過ごしたい学校に呼び出されて、彼の機嫌はらかに害されていた。
君らには、休日くらいは学生を労ろうって気遣いのはないのかい?」
普段は決して見せることのない彼のその不遜な態度に、彼をにしたカルフは思わず苦笑いを浮かべた。
機嫌が激しく悪いのは確かだが、それでは話が進まない。
不承不承ながらもここへ来た以上は、彼らに付き合う義務が生じる。
そうでなくては無責任だ。
それに、題でもある人物はそんな裏の事情など知らない。
さすがに、そんな人物を放っておくのは彼も気がひけた。
最早、事態は自分を要するほどに深刻化しているのだから、なおさらに。
組んでいた腕をほどき、彼はカルフと、その隣に腰をろす鴇を見据えた。
あの、吸い込まれそうなほどに、深い碧の海ので。

夢を見た。
誰かがしきりに何かを言っている夢。
昼間の授業に見たあの夢と同じ。
だけど違う。
あのときとは、何かが・・。
―――・・・局を見据えるんだ
でないと。

呑み込まれてしまうよ―――・・・


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あの男はいつだって笑っていた。

静かに、哀しいで。

『亜嵩・・丈夫か・・・?』
内から、声が響く。
うっすらと意識が浮上してきて、亜嵩はあやふやなで小さく頷いた。
大丈夫、と。
彼の肯定を受けて、亜嵩のを動かしていた鴇は、ほっと肩で息を吐いた。
もちろんそれは自分の体ではなく、亜嵩のものなのではあるが。
顕現させていた剣を軽く大地に突き刺し、鴇は入念に亜嵩の四肢を確認する。
傷は、最に押さえつけられた時にできたかすり傷程度で、ほかに目立った外傷はない。
しかし、大の大が、供で、それも、かなりの重量のある剣を握った経験など度もないような子供の体で無理に戦闘を行ったのだ。
今は大丈夫にしても、いずれ反動が来る。
鴇には肉体がないので構わないのだが、亜嵩は身の人間だ。
これ以上の無理はさせられない。
それに。
『―――・・・さすがに俺も、きついな・・・』
亜嵩に聞こえない程度に、小さくつぶやく。
人にのり移るとは、それだけ力を要するものだ。
現に今亜嵩の体を借りている鴇も、亜嵩の体で荒呼吸を繰り返していた。
『亜嵩・・・あとは、1人で帰れるな・・・?』
え・・・?」
慌てて亜嵩が振り返った時にはもう鴇の気配は掻き消えていた。
それから遅れて、体の感覚が自分に戻ってきていることに気づく。
鴇が離れて、全神経が元の持ち主の元に戻ったのだろう。
「・・・っ」
軽くふらついて、その場にへたり込む。
今頃になって、のり移った鴇の、自分とはけた違いな運動能力による体の駆使の反動が来たらしい。
全筋肉が痙攣したように、かすかな震えを帯びている。
だが、これがなければ亜嵩はあの場で負けていた。
鴇がいてくれたから、鴇が自分に力を貸してくれたから、今、こうして生きている。
あの場で、影を全て倒すことはできなかった。
恐らくまた来るだろう。
それまでに、しなければならないことがある。
(とりあえず、帰ったらじいちゃんを問い詰めよう・・・)
そもそもの元凶は先祖だったにしても、同じ血をひく祖父が何も知らないはずはない。
もしかしたら史義の刀だって、祖父が所持しているかもしれないのだ。
逡巡しながら、亜嵩は痛む体を引きずり、ゆっくりと石段を上っていく。
だんだん頭も朦朧としてきたが、そんなことは亜嵩の知るところではなかった。
祖父に全てを聞く。
それから、自分は今一度覚悟を決めなければならない。
敵はわかった。
そして、その敵に対して正面切って抵抗宣言をした以上は、最早平穏には暮らせまい。
それでもいいと思った。
1日で自分の中で何かが変わったとは思えないが、それでもことは既に自分を中として動き始めている。
ならいっそ、存分に巻き込まれてやろうじゃないか。
(その為に、俺にいろいろ押し付けたんだろ?じいちゃん・・・)
最後の段を上りきると同時、足が限界を訴える。
ふとをあげると、すぐ目のに祖父が立っていた。
もう視界がぼやけていて、祖父がどんな顔をしているのかよく見えない。
暗くなりゆく目の前を、祖父はただじっと立ちつくしていた。
ほら、やっぱり何もかも知っていたんじゃないか・・・。
「じ・・・ちゃ・・・」
を伸ばそうとした亜嵩の体は、しかしそのまま崩おれる。
地面にたたきつけられないようしっかりと抱きとめて、初老の祖父は、ゆっくりと息を吐き出した。
「後悔は、ないんだな・・・?」
祖父の小さなつぶやきは、深い眠りへと落ちていった亜嵩の耳には届かなかった・・・。

「あのさぁ、ここ幽霊専用避難所じゃないんですけど?」
心底不愉快だといった表情で、カルフは教室の壁にもたれかかっている鴇に抗議をしかけた。
カルフの言い分ももっともだと思っているので、鴇はあえて苦笑だけを浮かべる。
のり移った代償として、魂の力を随分と消費してしまった。
そんな状態でまた影に奇襲されれば今度こそ勝ち目はない。
だから鴇は、カルフの守護する、結界で守られたこの学校に身を寄せたのだ。
未だ落ち着きを取り戻さない呼吸を繰り返しながら、鴇は窓の外を眺めた。
雷鳴は、まだ鳴りやまない。

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