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就職はしてもまだまだ夢を追い続ける、そんな子鬼の唄をどうぞ。
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後悔はないか?」

いつだったか、そんなことを問われた。
応えたのは、俺か、あいつか
・・

「史義の刀は、俺が持ってる・・・」
厳かに、ゆっくりと、亜嵩は言った。
亜嵩の言葉に、影が
様に反応を示す。
当然だろう。
来ならばまったくもって用のない無力な供1
それを、こうして直々に奇襲してまで狙ってくるということは、何かを所持しているからだ。
彼らが人であることを放棄してまでも欲する、何かを。
それが、史義の所持していた刀だとすれば。
「ここで俺を殺せば、刀は一
に入らないぞ?」
亜嵩の挑発的な言葉に、影達はざわめく。
自然と、笑みが浮かんだ。
亜嵩の口端が、不敵につり上がる。
どうしてこんなにも、堂々としていられるんだろう。
自分でもよくわからないのに、不思議と恐怖
が消えている。
追われて、走っていた時には
あんなに耳ざわりだった心臓の音も、今は別の感情で高ぶっている。
圧倒的不利の状況
で、しかし亜嵩は勝利を実感しているかのように高揚していた。
(まずいな・・・)
そんな亜嵩の状態を、近くに押さえつけられていた鴇は警戒していた。
彼は知っている。
この少
の、その血に流れる、危険な性状を。
彼が知る
でこの血を最も濃く継いでいるのはこの少年。
そして、その原
たる人物こそが、亜嵩の祖先にして、鴇を寺に来るよう言ったあの男。
―――この力を絶対に解放させてはいけないよ・・・
でないと―――。
「・・・っ」
その危険性を、鴇は一度
にして知っている。
だから。
ぐっと力を入れて、鴇は
地に両の掌を押し付けた。
そうして、力づくで影を押しのける。
「・・・!?」
「放しやがれぇ・・・っ!!!」
叫ぶと同時、自由のきくようになった右手をかざして剣を呼び起こす。
普段使用していないときは自分の内にしまってあるのだ。
それを、具現化させ、呼び起こす。
顕現した剣を引き抜き、鴇は飛びかかってきた影を一太刀で斬り伏せた。
鞘と剣を握りしめ、亜嵩を押さえつけている影達に刃を向けて構える。
「亜嵩を放せ・・・!!!」
「鴇・・・っ!?」
亜嵩が驚いて目を見開く。
ひとつ頷いて、鴇は影に躍りかかった。
同時に、影の1人が腰に差していた刀を抜き放って刃を受け止める。
恐らく影だからなのだろう。刀身が黒い。
鈍い音をたてて剣を弾かれ、さすがに鴇は辟易した。
これでは亜嵩に近づけない。
を歪めたその時、鴇の視界の端に、何かが映った。
「―――・・・」
こちらを真っ直ぐに見つめる、亜嵩の顔だ。
真剣な瞳が、何かを鴇に訴えようとしている。
亜嵩の唇が、かすかに動いた。
「―――・・・」
・・・俺に、のり移れ。
確かに、そう言った。
ほかでもない、亜嵩が。
鴇は躊躇の意を表すように、慌てて横に首を振った。
しかし、亜嵩の目が逸らされることはない。
見入るような眼差しが、鴇に反論を赦さない。
固く、揺るがない信念に、鴇は折れた。
「・・・わかった」
静かに、目を伏せて同意を示す。
瞼の奥で、亜嵩がかすかに笑いかけた気がした。
「後悔、すんじゃねぇぞ・・・!」
迷いを捨て去り、鴇は目を開けた。
駈け出した彼を、影達が黒い刀でとどめようとする。
一方の亜嵩も、拘束された
をよじり、精一杯で右腕を伸ばす。
影達の隙間を縫って、伸ばされた、鴇の左腕に向かって。
2人の手が、触れた、その刹那。

大地を雷が轟いた。

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林を、亜嵩は脇も振らずにひたすら走っていた。
上りなのがつらい。
しかし、今
番近い安全地帯は最早、祖父のいる來寺しかない。
それにあの祖父はまだいろいろと隠しているようだから、この切羽詰った状況を見れば、いやでも口を開く気になるだろう。
・・多分。
亜嵩、あと少しだっ」
横について、鴇が
をかけてくれる。
なのだから、亜嵩にあわせて走らずともよいものを、ずっと側についていてくれる。
それがたとえ幽霊であっても、今の亜嵩には
強かった。
寺に続く石段が目
だ。
(あそこまで行けば・・・!!)
思わず安堵した、その刹那。
「ぅわっ・・・!」
「亜嵩!」
一瞬体が引っ張られたような気がして、亜嵩は体制を崩した。
前のめりに倒れ、したたかに腹と
を打つ。
息が詰まって、その場にうずくまったまま、何度かむせて、それから顔を上げようとして、
「ぁ・・・」
瞬間にして後悔した。
倒れたまま顔を上げた亜嵩の目前に、黒い影が立っている。
それは鴇とは違って足がちゃんとあるものの、亜嵩のように
きている者の気配ではなかった。
むしろ、鴇よりも冷たい感じがする。
それがあまりに強くて、亜嵩は思わず身震いした。
そういえば、鴇は?
気をその影からそらそうとして周囲に視線を向けたとき、亜嵩の視界に、何かが飛び込んできた。
「・・・っ、鴇!!!」
思わず叫んだ亜嵩を、影が押さえつける。
その向かいには、同じく押さえつけられた状態の鴇の姿が。
「くっそ・・・、放しやがれ!!!」
逃れようともがいてみるが、相手は

たかだか
14どもの力で勝てるような相手ではなかった。
鴇が心底申し訳なさそうな目で亜嵩を見つめている。
抵抗する余力がもう残っていないのか、鴇は大人しかった。
鴇が自分の昔のことを話してくれた直後、
2人を追ってきたのはこの黒い影だ。
そして、この影たちの正体は・・・。
あんたらがほしいのは、史義が持っていたっていう刀だろ?」
「亜嵩っ」
鴇が、何かを言いたそうに、悲痛な声で名を呼ぶ。
わかってる。鍵はその刀だ。
そして、鴇が言っていた、亜嵩にしか史義を救えないというのは恐らくその刀にかかっている。
ならば。
「その刀、持っているのは俺だ」
「馬鹿・・・っ」
鴇が声を上げようとして、影たちに押さえつけられる。
今の、鴇の反応で、亜嵩は確信した。
刀を持っているのは。

(俺だ・・・)

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史義、鴇、おかえりなさい」
もとより細
なのをより層細めて、は少を出迎えた。
親を亡くした孤児といえど、学識さえ持てば、職には
ありつけるだろうという育ての親の計らいにより、2人は毎屋に通うことができた。
後に史義が同
となれたのも、偏にこの養い親の計らい故だろう。
ただ、人には向き不向きというものがある。
鴇の場合、この計らいはあまり利益にはならなかったようだ。
しかし、とにもかくにも、日
忙しい鍛冶師を養父に持つ2人にとっては、何よりも楽しい時間であった。
ただそれが、長くは続かなかったということを除いて。

「いつ頃からかは忘れたんだけどさ、あいつが夜になる度
を抜け出すようになってさ」
「夜に?
鍛冶師だろ。品を納めに行ったとかゃないのか?」
「俺もそう思ったんだ。けど

鍛冶師が家を抜け出すことに気づいたのは鴇だけだった。
そしてそれを、鴇は兄に知らせなかった。
もしかしたらということもあり、兄に余計な心配をかけさせたくなかったからだ。
だが、それがそもそもの過ちだった。

?」
ふいに、亜嵩は鴇から視
を外した。
今日の出来事により敏感になった勘が、彼に
警告を発する。
しばらく周囲を見渡していた亜嵩は、いつの間にか鴇も表情を険しくして、横目で周囲に警戒しているのに気づいた。
鴇」
「ああ、どうやら奴らに気づかれたらしい
「奴らって
その先を言おうとした亜嵩を片手で制し、鴇は剣に手をかけた。
あの西洋式の剣だ。いつの間に腰に差していたのだろう。
亜嵩の疑問を余所に、彼は鞘から刃を抜き放つ。
小気味よい
属音が、周囲の茂みに響き渡った。
亜嵩を背に構えて、口を開く。
「亜嵩、逃げろ」
「え?!」
「お
にしか史兄は救えない。あの時、俺は結局最期まで史兄を救えなかった
だから」
託された想いは、とても真っ直ぐで。
亜嵩は思わず拳を握りしめた。
いやだ」
「亜嵩!」
「嫌に決まってるだろ!?どうすりゃ助けられんのかも、どう助けんのかもわかんねぇのに、はいでき
ますなんて無責任なこと言えるか!!お前がそれだけの想いを託してくれてんのに、俺だけが半端な覚悟で安請負できるか!!!」
「亜嵩
鴇は、思わず言葉をなくしていた。
ふと、この少年に
めて会ったときのことを思い出す。
あの日、この少年はまだちっぽけな存在でしかなかった。
だが、今は違う。
彼はこの数日間で驚くほどに成長した。
真っ直ぐなのは、この少年の瞳も同じ。
ふいに込み上げたものに、鴇は心底安堵した。
「何笑ってんだよ?」
「いやお前も成長したなぁと」
「うちのじいちゃんじゃあるまいし」
「でも年齢上はじいさんだぜ?」
にやりと笑みをたたえて、彼は少年に触れる。
これは死してなお、現世に留まる魂。
もう感じることのかなわない目の前の温もりに、ほんの少しの落胆を感じながら、彼はまだ
ある少年を慈しむのだ。

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その話を聞いたのは当に偶然だった。
ふらりと立ち寄った飯屋の片隅で1
、黙々と飯を頬張っていたときに、それは聞こえた。
それを耳にした瞬間、全身が煮えたぎるような感覚を覚えたことを、鴇は今でも鮮明に覚えている。
―――史義は始末しよう

カタン、と。立ち上がるのにあわせて机上の茶碗が音を立てる。

その後のことは、覚えていない。

聞き間違いゃ、ないんだよな?」
恐る恐る、亜嵩は問う。
その時とはうって変わって冷静に見据えた鴇は、とても静かに首をふった。
横へと。
「あいつらは、史兄と同じ同
だった。上衣が同じだったから間違いねぇ。それに」
彼らには、ひとつの疑惑があった。
盗賊とはいえ、鴇の掲げる理念はあくまで強者からの略奪。
盗み出した財は懐に溜め込むのではなく、全て貧しい人々に分け与えるのだ。
それなのに、ここ最近、妙に評判が悪い。
に変装をさせて探ったところ、自分たちが略奪だけでなく、殺しもやっているという噂が流れていることを知った。
鴇の、手下からの信頼は厚い。だから鴇の掲げる理念に、誰もが忠実だった。
それに、鴇の隣にはいつも。
―――
丈夫だって!頭(かしら)がしっかりしてりゃなんとかなるさ
そう言ってくれる、唯1人の友がいたから
だから、道を踏み外すことなく、これまで歩んでこれた。
「だけど全てそれは」
罠だった。
史義の仲間たちの言葉はあくまで鴇をおびき寄せる為の口上のでまかせ。そして、激情に任せて同心を斬り捨てた鴇は、名実共に、人斬りとなったのだ。
だが、それに今頃気づいたとしても、最早後の祭、取り返せるものは何もない。
鴇に残された道は、死罪という重い罰だけだった。
それでも、いいって思えた。俺が居なくなれば、史兄が罪人の身内と非難されることからは時間がたてば免れる。そうして、この先の未来を、歩んでくれるのならそれでいいって思った」
自分を貶めたことなどどうでもいい。
ただ兄さえ無事ならば。
唯1人の
族さえ、きてくれれば
「けれど」
そう口を紡ぐ鴇の
が、吹き抜けた風に煽られた髪で隠れる。
その
が向けられた先には、壮大に広がる夜闇に包まれた濃の空。
すっかり
の暮れた空を見据えて、鴇は語る。
「奴らは、
めから史兄を狙っていた。史兄からあるものを奪う為に」
「ある、もの?」
「ああ」

それは、史義が唯
にして最も大切にしていたもの。
「育ての親の、忘れ形見名工の中でも、至高の一振りとされる、刀だ」

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何だよ、あんた光來寺の坊さんだったのか」
「あれ?言わなかったっけ」
「あんたが言ったのは、『光來寺に来い』ってことだけだぞ」
マイペースな鴇も、ここまで我が道を行く
人間にはさすがに辟易した。
自分勝手は他
に迷惑をかける。
自分の上を見た為に、自分はもうちょい自粛しようと1人反省した鴇である。
「で?ここに来ればなんとかなんのかよ」
「それは君次第かな

「は?」

で、今に至る、と」
「そう!!」
「そう、
ゃねぇっ!!!」
殴れない
手とは知りつつも、思わず亜嵩は拳を振りかぶった。
案の定それは空を切るだけで感触はない。
ただ自分の
辺りをすり抜けられたのが気分悪かったのか、鴇は少しだけ不服そうな顔をした。
「結局そいつは
孫におを押し付けたってわけか!?めんどくせぇ
「あははは」
「笑うなっ!!」
怒鳴って亜嵩は思わず盛
にため息をついた。
つまりはこの
件、自分のせいというより、むしろ先祖の怠慢が原因ではないか。
亜嵩は1人、姿知らぬ先祖を恨んだ。
おのれご先祖。
で?それで俺は何をしろと
「この間見たな?俺の兄
史義を」
「え?あぁ
「史兄言ってただろ。俺が」
兄の仲間を、殺めたと。
鴇の表情に影が差したのを見て、亜嵩は思わず目をそらすようにうつむいた。
彼が自分を助けてくれた。
けれど、現在の彼が例えどうあがこうとも、その事実を覆すことはできないのだ。
その過去が変わることは決してない。
そして、史義は鴇がこの世にとどまり続ける限り、鴇を恨み続けるのだろう。
なのに。
「史兄を、助けてやってほしいんだ」
どうして、この男は。
「なんで・・・」
「え?」
「なんでだよ・・・っ」
思わず叫んだ声が、小さく震える。
どうしてこんなにも、この男は一途なのだろうか。
亜嵩には考えられなかった。
どういう事情であれ、自分を憎んでいる相手を、どうして助けてほしいなどと言えるのだろうか。
亜嵩が怒鳴ったことに、鴇は一瞬だけきょとんとした。
そして、それがどういう気持ちからくる言葉かに気付いて、つい笑みがこぼれる。
顔こそ似てはいるが、彼は今までに光來寺に生まれたどの住職よりも、真っ直ぐで優しい色の魂を宿している。
その証拠として彼は、たかだか一介の幽霊でしかない自分の為に、こんなにも想ってくれるのだから。
「・・・亜嵩は、優しいな・・・」
かつての兄も、こんな風に優しくて。
そうして気づいた。
ああ、自分は今も。
「今でも、大事な兄弟なんだ・・・」
さして年の離れていない、けれど、暮らしのつらい中で、弟を心配させまいとして、いつだって大きくあろうとしていた。
―――
俺が、ついてるからな・・・
あの言葉ほど、安心できた言葉はない。
兄はいつだって自分を守ってくれた。
だから。
「だから、俺はこの手を汚した。史兄を、守るために」
「え・・・?」
亜嵩は鴇を見上げた。
その眼は。
「亜嵩、史兄を助けてほしい」

決して揺らぐことのない、ただひとつの信念。

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