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就職はしてもまだまだ夢を追い続ける、そんな子鬼の唄をどうぞ。
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都会なんて面倒なだけだ

それは亜嵩がまだ、田舎の
來寺に来るの話

あーぁ、亜嵩転校かぁ
帰り道途
、亜嵩の隣を歩いていた男クラスメートが両手をズボンのポケットに突っ込んだままでぼやいた。
校則違反が当たり前と言わんばかりに、
髪に染め抜かれた頭が無駄に立つ。
クラスメートの
半が「校則は破るためにある」という変な理屈を持っているため、髪が地毛のままなのは亜嵩ぐらいだった。
亜嵩とて、優等
よろしく校則をきちんと守っているわけではない。
現に亜嵩も持ち込み禁止のウォークマンを何食わぬ
で聞いている。
髪をいじることが嫌いというのもあるが、彼の地毛がもともと薄茶色をしており、染めなくてもクラスの中で目立つことはないからだ。
ただし、全員が金髪やら茶髪やらと、
日本離れした色をしている為、亜嵩までもが染めていると勘違いされるのがたまにきずだが。
「俺が居ようが居まいが、大して変わらねぇじゃねぇか。うちのクラスは」
「いやそうだけどさー」
そう言って、彼は口をとがらせる。
彼が言わんとしているかはなんとなくわかる。
この都会において、亜嵩の存在は
当にちっぽけなもので、たとえ消えたところで何かが変わるほどの影響力は持っていない。
転校した
は何人か話題にするかもしれないが、万人が万人、同じように過ごしている環境の中で、亜嵩もまた『同じ』の一でしかない。
その一部が消えたところで、その全
の機能が滞ることはないのだ。
亜嵩が抜けた部分は、まるで
めからなかったかのように、埋められて、いつもを繰り返す。
それだけの存在だ。

「お前の
名前、『亜嵩』っていうんだろ?」

それだけの存在が、ただ1人の、しかも幽霊に言われただけで、存在に色がついた。
鴇は気づいていない。
亜嵩が、言われた瞬間、一瞬きょとんとしたことを。
そしてそっと笑みをこぼしたのを。
彼は知らない。

ここだから気づいたこと。
ここだから息づいたもの。
亜嵩の存在が、ここに来て初めて『一個体』として見られたことを、亜嵩が心密かに喜んだことを、今はまだ、誰も知らない。

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すっかり暗くなった帰り道を、亜嵩は重い足取りで歩いていた。
彼の頭の
で、いろんなことが駆け巡る。
裏切った弟を憎んで成仏できず未だ現世に留まる鴇の兄
史義。
兄と敵対する立場にありながら亜嵩を助けた鴇。
祖父に指図され、自らを
柱とし学校を守護するカルフと名乗る少年
それぞれが抱えるものが、今まで亜嵩が
験してきた何よりも重いもので、亜嵩は一度に飲み込めずにただ立ち尽くすしかなかった。
まーそんな辛気くさいすんなって」
そうカルフが明るく言って、その場に流れていた暗い空気を一掃してくれなかったら、亜嵩はいつまでも動けないままだっただろう。
机の
敷きになった司も浩正も、鴇が庇ってくれたおかげでしたケガもなく元気な様で帰途についた。
カルフのことも気にはなったが、今
は帰った方がいいと鴇に促され、自身も帰ることになり、今に至る。
隣では、いつの間にか傷も治り、どこにそんな余裕があるんだと思うほどに呑気な顔で鴇が歩いている。
暗いので余計に浮かび上がって見える鴇の姿は不気味以外の何者でもないが、対する亜嵩も、それらに囲まれて日々熟睡しているので、これといって
問題ではないようだ。
それよりも今亜嵩の頭の中は、今日までに起きたことで一杯だった。
「なぁ鴇」
「お?」
ふいに亜嵩の足が止まり、遅れて鴇も立ち止まる。
振り返った彼は、頑固なこの少
が素直に名前を呼んでくれたことに、内心で喜んだ。
それはつまり、まだ信用してくれている方だという証だからだ。
「どうした?」
、お
は、さ
歯切れ悪そうに、亜嵩は言葉を紡ぐ。
言葉を口にするのに精一杯で、
を合わせられず、俯く少年の姿があまりにおしく思えて、鴇はそっと目元を和ませた。
「お前、何で俺を助けたんだよ
「何でだと思う?」
「は?」
ぱっと顔をあげた亜嵩は、鴇が優しい眼差しをしていることに気づいた。
静かに微笑んで、彼は言う。
「お前さ、俺の恩人に似てんだよね。あ、
格は置いといて」
「何だと!?」
「まぁまぁ。そいつな、俺が死ぬときに言ったんだ」

『後悔したまま終わりたくないなら、
來寺に行ってみな』

「!!?」
「俺腹から大量出血でくたばりかけてんだぜ?そんな奴がどうやってそんな
奥まで行けんだって、こいつちょっと頭おかしいんじゃねぇのって、そう思った」

けれど死んで幽霊になって、鴇は何となくその寺の方へと足を向けていた。
そして。

「そこにいたんだよ。その男が」

男はいたずらをした子どものような無邪気な笑みを浮かべて言った。
『来たな。道を踏み違えた哀れな仔よ』

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晴れもすがすがしさを通り越して、少し肌寒さを感じるようになってきた夕方、黄昏時。
あいに位置する田舎の学校の、校舎内、2のとある教室内で仁立ちする少年が1
泣くも黙る形で、彼はに正座した状態の少年(外見から察するに、明らか年上)を見下ろしていた。
教室の端の方にそろりと移動した司と浩正が黙って見守る中、彼は静かに言った。
それはもう、低い声で。
要するに、今し方の現象は全てあんたの起こしたことで、別に俺の責任ではないということだな?」
反論を許されない圧力に屈して、少年はただそっと頷くしかない。はずなのだが。
「いやだからお前がここに居たからだって。何かしたらどうするのかなーって思って。要はお前の実力を試したわけだよ俺は 」
「いや、理由になってねぇし…」
げんなりとして、少年の背後に立った鴇が小さく突っ込む。
しかし、余計な飛び火を食らいたくはなかったので、努めて小さい声での突っ込みとなった。
少年の前に仁王立ちしていた亜嵩は不自然極まりない笑みをたたえている。
今やっかみを買ったら、それはもう恐ろしいことだろう。
泣く子も黙るというより、幽霊もびびる
迫力だ。
「そうか…」
静かな声音で返し、亜嵩は冴々とした目で少年を睨みつけた。
「じゃぁその力で今消されたとしても文句はないわけだな…!?」
「うーん、まぁそれはそれで仕方ないけど…」
亜嵩の言葉に
バカ正直に答えて、少年は真面目に思案する。
「でもやっぱそれだと面白くないし、やっぱやだ」
「やだってお前な…」
再び鴇が思わず突っ込む。
鴇の呆れが混じる視線をまるで気にせず、少年はにんまり
だ。
ここまでくると、場違いというよりも、最早空気を読めていないという状態である。
軽く一息ついて、亜嵩は自らをなだめた。
こういう
人間(いや、幽霊だけど)に対して、一方的に怒鳴るのは骨折り損のくたびれもうけ、要するに労力の無駄である。
ここはこちらが
大人にならなければならないのだ。
亜嵩は気を入れ替えて、少年を見た。
「あんた、
名前は?」
「俺?俺はカルフ」
「カルフ…?」
珍しい名だ。
髪の色こそ特殊ではあるが、顔立ちは
日本人のそれの特徴を持っている。そこから察して人だと踏んでいたのだが。
「あんた、外国の人だったのか」
「ぃんや?生まれも育ちも日本、この村だぜ」
「…?じゃぁハーフとか?」
「俺の
系に日本人以外の血がはいったことないんだけど」
「え…でも“カルフ”って…」
「んー、名前というよりこりゃ名称だな。“カルフ”ってのは通称。代々この学校を守ってる守護霊みたいなもんのことさ」
学校を守る幽霊…?
きょとんとする亜嵩に、鴇が具
的な説明を加える。
「お前と一緒さ。お前は
來寺を、こいつはこの学校を。
ただ1つ違うのが…こいつは人柱として命を落としたってこと」
「え…?」
「そしてそれを強要したのが、俺の育て親にして祖父の、初代理事長なんだよな」
そうつぶやいたカルフの横顔は。

あの日見た、鴇や鴇の兄のように、とてももの悲しい色を宿していて。

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亜嵩の眼前に広がるは、惨劇の跡で。

「・・・ぁ・・・っ」
を覆った彼の絶叫が、ただただ静まり返った校内に木霊した―――・・・


「かすり傷で済んだのは奇跡だぜ?」
しれっと言いのけて、
少年は崩折れてへたりこんだままの亜嵩のすぐ隣、ひっくり返った状態の机の脚にふわりと飛び乗った。
最早突っ込む気も起きないが、彼も生者ではない。
その証拠に、
知をかけ離れた身軽さと、来足元から伸びているはずの影がないという特徴が挙げられる。
どこの制服なのか、見慣れぬブレザー姿にネク
タイを閃かせて、少の一挙一動は優雅なものだ。
だが、今の亜嵩に、そんなことは視界にすら入ってはなかった。
机の下からのぞく腕にそっと触れる。
ぬるりとした感触のほかに感じられるのは、ぞくりとする程にひんやりとした冷たさだけだった。
「司・・・っ」
腕を見つめる視界が滲む。
内にこみ上げてきた
感情を押し殺して、拳を床へと叩きつけた。
「なんで・・・っ」
「それが
來寺の人間が背負う業だからだ」
「・・・っ」
先刻とは打って変わって、非常が鼻を突く言葉に、亜嵩は半ば睨みつける形で振り返った。
亜嵩の怒りをものともせず、少年は淡々と語る。
「光來寺の人間はな、昔この地に住んでいた村の奴らの怒りを買ったんだよ。もともと光來寺は強い力を有していた。けれどその力が引き起こしたことによって、光來寺は村
から疎外されたんだ」
「え・・・」
すっ、と。ふいに内の熱が冷める音がした。
それまでふつふつとこみ上げていたものは静かにひき、かわりに背筋を、妙に冷たい何かが滑り落ちゆくのを感じる。
亜嵩の顔をまっすぐに見つめて、少年は真剣なまなざしを向けた。
「光來寺は、力を暴走させてしまったんだ。制御できずに、村を破壊して・・・犠牲の数は、半数を優に超えていた・・・」
亜嵩の瞳の奥で、凍りつくものがあった。
力の暴走。そして、今起きた、ポルターガイスト現象。
ポルターガイストが起きる要因を、司は何と言ったか。
―――
能力のある人の制御できない力によるものとも・・・
能力のある者。この少年の言葉が正しいとするならば、ではこれは―――
「亜嵩のせいじゃねえ・・・」
「!」
「・・・へぇ・・・」
ふいに、背後から温かみのある声が響いた。
声がしたことに驚いた様
の亜嵩に対し、少年は感心している風だ。
2人の少年がゆっくりと背後を振り返ると同時。
積みにされていた机の重なりが崩れて、中から人の姿がのそりと動いた。
派手な音をたてて机が倒れていくが、そんなことは亜嵩の気にするところではなかった。
「鴇・・・っ」
「お前はまだ何もしてねぇよ、亜嵩。この机でお前やこいつらを襲ったのは・・・」
満身創痍ではありながらも、しっかりと立ち上がった鴇の姿を見、ついで、彼が指し示した先に、ほとんど外傷のない、司と浩正の横たわる姿を
にして、亜嵩は心の奥底から息を吐き出して力を抜いた。
よかった、皆無事だ。
そう1人胸をなで下ろしてから、亜嵩は鴇の言葉の続きを聞くべく背筋をしゃんと伸ばして鴇を見上げた。
額から血を流して、見るからに痛々しそうな鴇は、しかしその眼はぎらぎらとどす黒く輝いていて。
「・・・こいつだ」
鴇の指さす先に立っていたその人物は、ゆっくりと口端を吊り上げて、にやりと笑みを浮かべた。

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カタカタ、と窓枠が音をたてて震えている。
外の風がきついからではない。先刻のポルターガイストの続きのようだ。
これ、外に出た方がいいよな・・・?
「だけど亜嵩、多分もう閉じ込められちゃってるぞ?」
額に冷や汗を滲ませて呟いた亜嵩は、鴇のあっさりとした返答に、思わず固まった。
「いや、ほんとに」
「亜嵩、確かにド
、開かないよ・・・?」
しれっと言いのける鴇、即実行した司。
のあまりの冷静さに、亜嵩は脱力した。
「お前らほんとに順応性あるよな・・・」
「お!?亜嵩、じゅんおうせいってなんだ!?どっかの星か!!?」
1人、状況が呑み込めない浩正だけが、無駄に明るくはしゃぐ。
亜嵩は静かにひとつ、ため息をついた。
と、そのときだ。
「・・・?」
亜嵩と鴇、
をあげたのはほぼ同時。
その瞬間、音はぴたりと止んだ。
しんとして、一変して室内は静寂に包まれる。
「止まった・・・?」
「みたいだね・・・でも、どうして・・・」
少年3人がきょとんとして周囲を見回す隣で、鴇は険しい表情を浮かべていた。
振り返った亜嵩が気付いて呼ぶ。
応じた鴇の
を見て、亜嵩はなんとなく理解した。
「まだ、終わりじゃない・・・」
「亜嵩、それどういう
意味だよ・・・」
「もしかして…」
亜嵩の言葉の意味するところを一番よく理解する司が、表情に険を滲ませて問う。
の前の静けさってやつ・・・?」
「・・・かも」
そうつぶやいた刹那。
「ぅわ・・・っ」
地震のように、否、まるで床が波のようにうねって、一同はバランスを崩した。
足場がぐにゃりと歪むので、まともに立つこともできない。
そこに、狙って机と椅
がふわりと浮かんで停止し、一瞬の間をおいて落下してきた。
避けようにも、
をうまく運べない。
3人は思わずその場にうずくまった。
―――・・・っ!!!」
息をのんで、頭を抱える。
その瞬間、音が止んだように感じた。

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