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就職はしてもまだまだ夢を追い続ける、そんな子鬼の唄をどうぞ。
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「俺は自分のことが思い出せないのさ」
 
そう言ったあの男は。
とても寂しげな表情で。
だから思った。
ああ、この男は、確かに人間なんだな、と。
 
部屋を出たところから続く縁側に、亜嵩は片膝を抱えて座っていた。
広がる闇は、都会のように灯りに邪魔されることもなく、純粋に佇んでいる。
その中にひっそりと息をひそめている草木をそれとなく見つめていると、ふいに何かが横に座った感が伝わってきた。
もう驚きもしない。
はっきりとわからないのは、相手が生者ではないからだ。
振り向きもせずに、亜嵩は語りかける。
「あんた強いんだな」
「まさか。もう慣れただけさ。まぁさすがにここに来たばっかの頃は焦ったけどね」
見えていないが、話し手はおそらくにんまりと笑っているだろう。
その心遣いが、くすぐったかった。
「俺ね、1個だけわかることあるんだよな」
「え?」
亜嵩は思わず振り返った。
隣に座る、長身の青年と目が合う。
男は、合図のようににっこり微笑んだ。
「俺の名前。お前のじいさんからお前の名前聞いたよ。“亜嵩”っていうんだろ?
なのにお前だけ俺の名前知らないんじゃ不公平だよな、と思って。
それに」
一旦言葉を切って、男は前方に広がる闇を見つめた。
「名前って、親からもらう2つ目の宝物だろ?」
「1つ目は?」
「そりゃお前、産んでもらうときにつくってもらったこの体よ!・・・ま、俺の場合、随分と粗末にしちまったみたいだけど」
そう言って、自分の手のひらに視線を落とす。
一緒に覗きこんだ亜嵩は見た。
その両手にくっきりと残る、深い傷痕を。
「俺が生前何してたかはわからねぇ。けど、例えどんな俺であっても、俺はそれを受け
めたい。たったひとつの、俺の記憶なんだから・・・」
「お前・・・」
亜嵩は、小さくつぶやいた。
そして、ふと笑みをこぼす。
「亜嵩?」
「いや・・・お前やっぱすげぇよ。それならきっと、生前もいい奴だったんだろうよ」
「おお!亜嵩が俺のこと褒めた!!」
「うっせ。俺だって人褒めたりくらいするっての。あんた俺のこと何だと思ってんだよ」
むっとして眉間にしわを寄せると、男が慌てて訂正する。
「いや、褒めるってのはいいことだって!」
「とってつけたように言うなよな」
「悪いってぇ・・・」
どちらからともなく、笑いがこぼれる。
2人は向かい合って、声を出して笑っていた。
そんな2人を、他に居ついている霊たちはこぞって微笑ましく見守っている。
彼らは、新たな住人を、そして、果てにはこの地を護る主となるこの少年を、心から迎え入れているようだった。
「そういや、結局お前名前何て言うんだよ?」
「ああそうだった。俺は―」
男がそう、言葉を口にしかけた、そのとき。
亜嵩は、周囲の霊たちが一斉に騒ぎだしたのを、見た。
遅れて、隣がはっと立ち上がる。
慌てて亜嵩も立ち上がる。
「どうしたんだ・・・?」
そう、問うよりも早く。
「鴇」
そう、誰かが名を呼ぶ。
否、2人の前に、誰かが立っている。
その声は、その男から発された。
いぶかしげにその男の方を振り返った亜嵩は、そのまま凍りついた。
「見つけたぞ、我が弟にして江戸一の大罪人」
そう言った男は、鴇と呼ばれた、亜嵩の隣に立つ男と同じ顔で、弟に刃を向けた―――・・・。

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穏やかに、哀しげに。
男はただ笑みを浮かべるだけで。

そんな彼に、少年は何も言えなかった。

 
「なーじいさん、俺なんかまずい発言しちゃったかも・・・」
珍しく男がしょげて現れたので、祖父は思わず軽く眼を瞠った。
その姿があまりに意外だったので、つい苦笑が漏れる。
溜め息をついて肩を落とす男に隣を勧めて、祖父は庭先を見つめた。
男も静かに横に胡坐をかいて座ると、祖父と同じ方角を見る。
あれからだいぶ時間がたち、空はすでに闇に覆われていた。
「お前が今日連れてきたあの子ども・・・」
「あれはわしの孫だ。亜嵩というてな、今年で14になる」
「亜嵩・・・」
昼間さんざんに喚いていた少年を思いかえして、男はその名をつぶやいた。
男にとって、記憶がないことは最早当たり前のことだった。
この祖父が生まれるよりもさらにずっと前からこの寺に居て、この地を護る寺の人間たちを、男はこれまで多く見てきている。
その上で、霊体が20そこそこと、えらく年若いのは、きっとろくに人生も送れなかったのだろうし、むしろ記憶がないのは自業自得ともいえるのだということを知った。
だからいまさら、心痛むこともないというのに。
「あの子ども・・・俺が記憶ないって言ったら、すごく傷ついたような顔をしたんだ・・・」
その後、亜嵩は一言も話さなくなった。
あの少年が心を痛めたのなら、おそらく自分の発言に非がある。
だが、祖父からかえってきた言葉は、意外なものだった。
「いや・・・あの子はただ単純に、お前の言葉に驚いただけじゃよ」
「え・・・?」
「あの子は人の記憶がすべてだと思っておる。その人がこれまで歩み、見聞きしてきたこと、それが記憶だ。
しかしそれが急になくなってしまったら、きっと不安で生きていけないと思ったんだろうなぁ」
祖父の言葉に、男は言葉をなくす。
それからゆっくりと、自分の手のひらを見返した。
その手には、まるで旋風でも受けたかのように、深い、深い傷痕が残っていた・・・。

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すっかり秋の色に彩られた山の一角、古びた寺の廊下にて、1人の少年の絶叫が轟いた。
「何だよここはー・・・!!!」
季節は秋、1人の少年の第一声である。
 
「なぁ!ここ何なワケ!?」
猛烈な足音を立てて駆け戻ってきた少年を、室内の祖父は、やはり、といった顔で出迎えた。
「何ってそのままだ。見たんだろう?」
「見たよ!見たから言ってんの!!」
「見たならわかるじゃろ。ここはそういうところだ」
永く生きる身だけあって、祖父は至って冷静である。
しかし、孫にとってそれは、信じられない態度であった。
「だからじぃちゃん何でそう落ち着いてられんだよ…!」
「愚か者。仮にもこの寺の跡取りが、あれしきのことで泣き言をぬかすとは何事か」
「今日から生活する自分の部屋に侍の霊が出りゃ普通誰でも泣きたくなるわ―――!!!」
 
絶叫するこの少年、名を、光來寺 亜嵩(コウライジ アタカ)。今年で14になる。
もともと都会の育ちだが、この度両親が、少年を除く家族全員で海外に引っ越した。
まだ母離れもできていない弟は致し方ないが、お前は中学と高校があるだろ、とさわやかに言われ、1人残ることと相成った。
ただ、中学生、しかも、料理ひとつ満足にこなせない子どもが1人で生活できるはずもない。ということで、1人悠々自適に生活していた祖父の下に送られたのである。
それはいい。
もともと祖父はよく遊んでくれたし、都会よりもむしろ野山に囲まれたこっちの方が好きだ。
…それはいい。
「…だからって、ここが幽霊屋敷(もとい、寺)だなんて聞いてねぇよ!!!」
短い、薄茶の髪を振り乱して、亜嵩は喚く。
そのとき、すぐ側で呑気な声があがった。
「そうカリカリすんなって。俺らも別段、何か悪さしたり害を与えたりしたことねぇし」
「そういう問題じゃねーっ」
鬼の形相でにらむ先には1人の男。
薄紅と薄黒のかかった橙の着物を着流して、長く伸ばした髪をひとつに束ねている。
気楽にも障子によりかかっているが、それは実体を持たないからこその所業であった。
つまりこの男も、例に漏れず、霊である。
そして、この男が主に亜嵩の部屋に居ついていることに、亜嵩は腹をたてていた。
「まぁ仲良くしようや」
「できるかっ」
「あ、ひっで。これでも一応人間なんだぞ?かなり年上なんだぞ?敬えよなぁ」
「あほかーっ」
和解を試みる男に対し、亜嵩は怒鳴る一方だ。
さすがの男も、これには辟易した。
「お前なぁ・・・ここに居る奴らには何かしら皆理由があるんだぜ?そう簡単に成仏もできねぇし」
「じゃあお前は何が理由なんだよ」
亜嵩がぶすくれて問う。
だがその表情は、一瞬にして、色をなくしたものへと変わる。
 
「俺は自分のことが思い出せないのさ」
 
紅葉する秋、その地に何かが起こる、予感がした―――…

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「奴を決して逃がすな・・・!」
1人の男の言葉に、部下たちが一斉に一礼をして走り去る。
四方に姿を消した部下のあとを目で追っていた男は、全員が見えなくなったところで小さく溜め息をもらした。
それから、胡乱気にすぐ側の木を一瞥する。
「・・・それで身を隠したつもりか、たわけ者め」
「あ、やっぱバレてた?」
木の後ろから、小さく返事が返る。
男は再度溜め息をついた。
「当たり前だっ。それにお前、足を痛めたな・・・?」
これには返答がなかった。
今、男と木をはさんで姿を隠しているのは、今まさに男が部下に命じて追わせている人物。
だが、先刻その言葉を発したとき、そこにその人物が隠れているのに、男は気づいていながら部下に知らせなかった。
そこにいるその人物は、男にとって、並ならぬ関係があったからだ。
「その状態で、どうやって俺から逃げ切るつもりだ?―――鴇(トキ)」
「『俺の部下から』、でしょ?史(フミ)兄」
木の陰からゆっくりと顔をのぞかせる。
その顔は、史と呼ばれた男と同じ顔があった。
ただ違うのは、男と違い、鴇のほうが表情が柔らかい。
対して史は厳格な性で、常に仏頂面だった。
そして、史はその職の関係上、きちんとまげを結っているが、鴇は長く伸ばした髪を、鮮やかな色をした結紐で結っていた。
あとは同じ。
つややかな黒髪に澄んだ琥珀の瞳。ともに無駄のないすらりとした長身で、顔も整っている。
傍から見れば色男と噂されてもおかしくはないこの2人、実は大変なる事実を隠している。
この2人、同じ血を分け合う兄弟である。
それだけではない。
兄・史義(フミヨシ)は罪人を追う十手持ち。
対する弟・鴇は・・・。

「兄さんがなんと言おうとも、俺はどこまでも逃げ続けるよ。なんたって、この江戸の町を騒がす、盗賊の頭領なんだからね・・・」

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はじめましての方も、いつも覗きに来てくれる方もこんにちはハジメマシテ。
ページだけ作ったものの、翌日からまた仕事だったもので、ページを更新することができずにおりました・・・
おはずかしゃ・・・

さて、無事社会人となりまして、ブログの方も新しい場所で新しく開設しようと思い、このたびこちらに移動することになりました。
いかんせん気まぐれっ子の私ですが、どうか末永くお付き合いくださいませ
これからどんどんカテゴリも増やしていく予定ですので、どうぞお楽しみに~

とりあえず、小説やらをこっちにお引っ越しさせないとですね
でわでわ、よろしくお願いします

 

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